サッカーシミュレーションゲームの最新作【FIFA21 RMT】が発売された。新要素が増えるなど確実に進化している本作だが、必ずしも待ち望まれた変化ばかりではない。全体的な出来は悪くないのだが、ゲーム機の世代交代の狭間において“膠着状態”にあるという雰囲気が感じられる──。『WIRED』UK版によるレヴュー。
世界は奇妙で混乱に満ちているが、それでもまだ信頼できるものはいくつか残っている。毎年、秋が訪れて風が冷たくなって木の葉が色を変え始めるころ、エレクトロニック・アーツ(EA)がサッカーシミュレーションゲーム「FIFA」シリーズの最新作をリリースするのだ。
【FIFA21 RMT】は、世界のサッカー界にとって少し奇妙な時期に発売されることになった。この半年以上、大半の国のサッカーは無観客で試合が開催されているからだ。実際のところ、一部の放送局は本物のサポーターが観戦しているような雰囲気を出すために、FIFAシリーズの音声を流している。本シリーズのサウンドが、それだけリアルであることを示す一例だ。
しかし、その他の面で本作は、シリーズの過去の作品よりも現実のサッカーから遠ざかっているように感じられる。特に現実世界のトップレヴェルでは、ヴィデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)制度が導入されたことで、得点のパターンやディフェンダーの動きが根本から変わったことが大きい。こうしたことはFIFA 21には一切反映されていないが、全体的に考えればいいことなのかもしれない。
例年通り、EAはゲームプレイに小さな変更を加え、それをエキサイティングな新要素として売り出している。今年の目玉は「アジャイルドリブル」だ。巧みな親指の操作と右のバンパー(「R1」や「RB」)ボタンを組み合わせることで、ソーシャルメディアで“バズる”ような派手なフットワークを繰り出せる。
これは「フェイスアップドリブル」や「ストレイフドリブル」に続く新要素だ。実際のところ、個人的にはこうしたさまざまなドリブルをどのように状況ごとに使い分ければいいのかよくわかっていないが、これらをうまく使いこなせるプレイヤーを相手にすると、怒りが込み上げてくることは知っている。
また、ポジショニングにも重点が置かれている。例えば現実のサッカーと同じように、優れたAIプレイヤーはスペースをうまく使い、「ポケット」に流れてシュートを打つための空間をつくり出す。
プレイヤーはオフ・ザ・ボールの動きもより細かくコントロールできるようになった。右スティックのフリックでチームメイトを思い通りのスペースに走り込ませ、キラーパスを出せるのだ。また、両方のスティックを同時に押し込むことで、操作するプレイヤーを固定するオプションまである。これは素速いパス&ゴーには最適といえる。
ピッチ上のグラフィックはいつも通りだが、いくつかのモーションが追加されたことで現実の動きに近づいた。キリアン・エムバペが浮き球のスルーパスをももでコントロールしてゴールに迫っていった場面は、ひとつの好例だろう。「コリジョンシステム」は調整が加えられ、選手はスライディングタックルをジャンプで回避し、ディフェンダーはゴール前で行きあたりばったりのドタバタ劇を演じなくなった。
一方で過去作と同じく、特定の得点パターンが強すぎるように感じられる。今作では巧みなループシュートが特に危険なようだ(あるいは、キーパーを前に突っ込ませすぎだったのかもしれない)。
また一例として、前作ではヘディングからの得点がほぼ不可能だったことを受け、開発側はテコ入れを試みている。これからの1年間、プレイヤーからの不満に応えるかたちでさまざまな調整がされることになるだろう。この点に関してEAは、「Trello」上にボードを作成するという珍しいかたちを採っており、ゲーム内の特定の問題に関する対応や、修正の進捗状況をファンたちが確認できるようにしている。【FIFA21 RMT】
この変更について許せないと思っているのはわたしだけかもしれないが、実況と解説を務めてきたマーティン・タイラーとアラン・スミス(古いソファのような安心感と居心地のよさを与えてくれるコンビだ)が、ゲームから完全に消えてしまったことだ。彼らに代わり、「FIFA 20」のチャンピオンズリーグで実況と解説を担当していた、耳障りなデレク・レイとリー・ディクソンがすべての試合を担当することになった。
現実のサッカー中継では、ふたりは「BT Sport」やITVで素晴らしい仕事をしている、だが本作のレイは、収録前にコーヒーを飲みすぎたのか、やたらと叫びまくり、選手名を過剰に強調するといういら立たしい癖を披露してしまっている。
タイラーとスミスは長年にわたってシリーズを担当してきたので、収録されている音声パターンが非常に豊富で、繰り返しが少なく多様で自然な実況と解説だった。これに対してレイとディクソンにはまだその蓄積がないので、同じ音声パターンを繰り返し聞かされることになる(例外として、レイは「ブルーノ・フェルナンデス」に関して17通りの発声パターンをもっているようだ)。
ゲームモードについては、「キャリアモード」(試合をシミュレートして、流れが悪くなったら自分で操作することが可能になった)や少人数制サッカーの「VOLTA FOOTBALL」に若干の変更が加えられたが、これらが特に待ち望まれていた変化でないことは確かだろう。しかしEAは、大きな収入源であるルートボックス[編註:日本でいう「ガチャ」に近い]偏重の「FIFA Ultimate Team」に大半のリソースを投入し、新たな協力モードと自分だけのスタジアムをつくれる機能を追加した。
総合的に見て本作は、悪くない出来だとは言える。前作を買った人なら、おそらく本作も購入することになるだろう。とりわけ次世代機の「プレイステーション5」または「Xbox Series X/S」をすぐに手に入れようとしている人なら、本作は無料で次世代機ヴァージョンにアップグレードできるからだ。カジュアルなプレイヤーやしばらくシリーズから離れている人に対しては、過去作よりも本作を推すことは難しい。
現行世代のゲーム機の時代が終わりを迎えようとしているなか、本シリーズが膠着状態にあるという雰囲気は間違いなくある。おそらく革新的な変化は次世代機まで温存ということなのだろう。
いまだに本作は、ほかのどのゲームよりもサッカーの喜びをうまく表現できている。だが、マンチェスター・ユナイテッドに加入したエディンソン・カヴァーニのように年齢による陰りも見える。確かに楽しいが、最適なお金の使い道とは言えないのかもしれない。【FIFA21 RMT】